釣り場で「次でラストにしよう」と決心するものの、その「ラスト1回」を何度も繰り返してしまった経験、ありませんか?つい「もう一投…」とロッドを振ってしまう――釣り好きならきっと共感できる釣り人あるあるでしょう。実はこの現象、心理学や行動経済学、さらには脳科学の視点から見るとちゃんと理由があるんです。今回は、釣り人がやめ時を見失うこの不思議な現象について、分かりやすく解説してみたいと思います。
これは独断と偏見で調べてみた・考察してみたシリーズです。
信頼性は保証しません。あくまでエンタメとして見てください(笑)
部分強化のワナ:「たまに当たる」が人をハマらせる
まず最初のポイントは「部分強化」という心理現象です。これは簡単に言うと、「毎回ではなく時々ご褒美(報酬)がもらえるほうが、行動は長続きしやすい」というもの。【心理実験の豆知識】ネズミの実験で、レバーを押すと毎回エサが出る場合と、ランダムでしか出ない場合を比べると、ランダムでもらえる方がネズミは執拗にレバーを押し続けるそうです。人間も同じで、不確実なほうがハマりやすいんですね。
釣りはまさにこの部分強化の典型です。毎回魚が釣れるわけではありませんが、たまに大物がヒットするからやめられない!「次こそは…!」という期待が常にあるので、延々とキャストを続けてしまいます。心理学者B.F.スキナーも「ギャンブルは代表的な変動比率スケジュール(=部分強化)だ」と述べていますが釣りもある意味ギャンブル的な要素があるんだと思います。
「惜しい!」がさらに火をつけるニアミス効果
釣りをしていると、餌だけかじられて針にかからなかったり、水面まで魚影を追いかけてきたけど食いつかなかったりと、「うわー今の惜しい!」という場面がありますよね。実はこの「惜しい体験」こそ危ない(?)んです。
人間の脳は、勝ちに近いハズレ=ニアミスでも結構な興奮を覚えるようにできています。研究によれば、スロットマシンであと絵柄一つで大当たりというハズレが出た時、ギャンブラーの脳はドーパミンがドバッと出て「やった!…じゃないのに何故か嬉しい!」という反応を示すとか。これが「次はイケるかも!」という気持ちを生み、行動を継続させる原動力になります。
釣りに置き換えると、例えば大物がヒットしたのに途中でバレてしまったとき。めちゃくちゃ悔しいんだけど、同時に心臓バクバクですよね?それは脳内報酬系が刺激を受けて興奮している状態です。「惜しいバラシ」は釣り人の闘志に火をつけ、「まだ終われない!」と感じさせる最高のスパイスなのです。
「坊主はイヤだ!」損失回避バイアス
釣り人がやめられないもう一つの心理に損失回避バイアスがあります。人間は得をすること以上に、損をすることを強烈に嫌う性質があります。釣りにおける「損失」って何でしょうか?…そう、それは坊主(魚が一匹も釣れないこと)ですよね。
せっかく早起きして出かけたのに坊主で帰るのは悔しい。時間と労力を無駄にしたように感じてしまう。この「損したくない!」という思いが強いほど、人はリスクを取ってでも行動を続けがちになります。「もうちょっと粘れば1匹くらい釣れるはず…!」と考えてしまうわけです。
経済行動学ではこれをサンクコスト効果とも関連付けて説明します。すでに投下したコスト(時間・体力・お金)が惜しくて、引くに引けなくなる心理です。釣り場でも「あれだけ頑張ったんだから、このまま帰るのはもったいない」と感じてしまいますよね。これこそがズルズル延長の大きな理由でしょう。
まぁギャンブルと違って釣りは続けてもいいと思いますが(笑)
「最後の一投」のはずが…心理的リアクタンスと後悔
面白いことに、「次で最後!」と自分で区切りを宣言すること自体がプレッシャーになってしまう現象もあります。心理学では心理的リアクタンスと言って、人は自由を制限されると反発したくなる性質があります。自分で「終わり」を決めたのに、それに自分で逆らうって変な話ですが(笑)、要は「本当に終わりにしたくない!」という心の声が出てきてしまうんですね。
また、「ここでやめたら後で後悔するかも…」という後悔回避の心理も働きます。釣り人なら誰しも想像したことがあるはずです。「もし今片付け始めた瞬間にボイルが起きたら…」「帰った直後に他の人が大物を釣り上げたら…?」考え出すとキリがありませんが、そのもしもを見届けずに帰るのが怖いと感じるみたいです。で、「じゃあもうちょっとだけやっていこう」と延長戦に入ってしまうわけです。
要するに、「ラスト一投!」という言葉とは裏腹に、釣り人の心の中では「やめたくない!」「後悔したくない!」という気持ちが渦巻いているんです。
脳内で何が?ドーパミンと快感のサイクル
さて、心理面は色々分かってきましたが、実は脳内物質の観点からもこの現象を説明できます。鍵となるのはドーパミンです。ドーパミンは脳内の神経伝達物質で、何か楽しいことや嬉しいことがあると出る物質です。そして一度ドーパミンが出ると「もっとそれをしたい!」と人に思わせる作用があります。
釣りで魚がかかった瞬間、アドレナリンも出ますがドーパミンも出まくっています。だからものすごく気持ちいい。釣り人がニヤニヤして「ヨッシャー!」とガッツポーズするあの瞬間ですね。そして困ったことに(?)、その快感を覚えてしまうと脳は学習します。「この場所でこのルアーを投げればあの快感が得られたぞ。またやろう!」と。これが強化学習と呼ばれる脳の仕組みです。人は快感を覚えた行動を繰り返そうとするんですね。
しかも釣りの場合、いつその快感が得られるか分からないのがミソです。ドーパミン研究の面白いところで、実は「今からご褒美がもらえるぞ」と期待している段階でもうドーパミンは出ているんです
不確実だからこそ期待値が高まり、ドキドキワクワクしてしまう。それが延々続くと考えてみてください。脳は常にご褒美待ちの興奮状態にあるわけで、これではなかなかクールダウンして帰ろうという気持ちになれないですよね。
ランナーズハイと釣り人ハイ?
長時間釣りをしていると、不思議と疲れを感じなくなる瞬間ってありませんか?朝から立ちっぱなしで普通に考えたらクタクタのはずなのに、「あと1時間やれるぞ…!」みたいな妙なハイ状態になることがあります。これ、運動好きの人がいうランナーズハイにちょっと似ています。
ランナーズハイはマラソンなどで長く走ったときに訪れる陶酔感で、脳内のエンドルフィンやエンドカンナビノイドという物質が関与しています。これらは体の痛みを和らげたり幸福感をもたらしたりする天然の麻酔・多幸物質です。釣りでも、キャストを繰り返すリズム運動や新鮮な空気、集中状態などによって、こうした物質が適度に分泌されることが考えられます。
特に魚とのファイト(やり取り)中はアドレナリンが出て痛みや疲労を感じにくくなりますし、釣り上げた後もしばらくは興奮冷めやらずハイな気分ですよね。足が棒になっているのに気づくのは釣りを終えて車に乗った途端…なんて人も多いでしょう(笑)。このように体内麻薬によって疲労感がマスキング(隠蔽)されていると、余計に「まだ大丈夫、やれる」と感じてしまい、釣り続行の一因になります。
まぁどちらかというと、爆釣した日はそのままアドレナリン出まくって寝ずに帰れたり、帰宅後も片付けができちゃうパワーがこれを指すかもしれませんね(笑)
終わりに:付き合い方次第で最高の趣味
ここまで見てきたように、釣り人が「ラスト1回」を繰り返してしまうのには、人間の心理と脳の両面からいくつもの理由がありました。まとめると:
- 部分強化とニアミスが釣り人の闘争心に火をつける
- 損失回避や後悔の恐れで粘りがちになる
- 脳内報酬(ドーパミン)が快感ループを作り出す
- 疲労麻痺(エンドルフィン効果)でやめ時の判断が鈍る
といったところでしょうか。
こう考えると、「あと1投!」を繰り返す自分をあまり責めなくてもいい気がしてきませんか?それは人間として自然な反応なのですから。
もっとも、「釣りは計画的に」の精神も大事です。翌日の仕事に差し支えるほど無理をしたり、家族との約束を破ったりしてしまっては元も子もありません。自分の心と脳の性質を理解した上で、ほろ苦い自己ツッコミを入れつつ上手にやめ時を見極めるのも、釣り人の腕の見せ所かもしれません。
とはいえ…釣り場で夕暮れ時、「そろそろ帰らないと」と思いつつロッドを持つ手が勝手にもう一度キャストしてしまう。その気持ちは、やっぱり何にも代えがたい釣りの醍醐味なんですよね。
皆さんも、この不思議な現象とうまく付き合いながら、安全に楽しく釣りを続けてください。それでは、次こそ本当にラスト一投!良い釣りを!🎣